夜空の暗さの定量的計測とツーリストの星空評価の比較分析 ~ みさと天文台における予備調査と今後の展望 ~
http://www.sti-jpn.org/conf/sti2022/program.html
夜空の暗さの定量的計測とツーリストの星空評価の比較分析~ みさと天文台における予備調査と今後の展望 ~米澤 樹(紀美野町みさと天文台)澤田 幸輝(和歌山大学大学院観光学研究科)尾久土 正己(和歌山大学観光学部)
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アストロツーリズム「美しい星空や天体を見上げるために居住地を離れる諸活動(澤田・尾久土,2020)」例)公開天文台や観光地の星空ツアー、プラネタリウム、オーロラツアー等
アストロツーリズムの流行•「星空を眺めるための旅行への参加」に興味がある人数は全国で1,440万人(宙ツーリズム推進協議会,2019)•公開天文台で夜間に星を見る人は年間55万人(全国公開天文台協会,2006)• 2018年は72万人(※予備集計)星空を眺めるツアーの例)阿智村
アストロツーリズムで求められるもの「望遠鏡を覗く」や「天文知識に関する学び」よりも「綺麗な星空」を求めるアストロツーリズム未経験者に対する意識調査(n=163) (澤田他,2021)
星空について•星空の「きれいさ」は日々変化する•「月齢」「光害の量」「雲量」「風」「空気中のちりの量」「湿度」など様々な環境要因により変化する(下記は月齢だけ変化させた例)7/29新月期の星空※輝度を補正しています。7/13満月期の星空※輝度を補正しています。
目的•星空の「きれいさ」は何によって決まるのか•環境要因と観光客の星空評価を比較仮説1観光客の星空評価は、空の暗さと相関がある。仮説2観光客の星空評価は、気温や雲量、月明かりなど個別事象よりも総合的な事象である空の暗さと相関がある
調査地:みさと天文台•町立天文台(教育課)•大人1,500円 子ども200円•プラネタリウムもあり•2021年リニューアル•「天の川」を前面に売り出した観光施設(山内,2022)
空の明るさの計測について•かつては裸眼測定(何等級まで見えているか・主観的)•環境省が毎年実施している「全国星空継続観察」はデジタルカメラを使用→基準星と空の暗さを比較し算出→算出に時間と手間がかかる•連続した計測は必要な調査ではSQM-LE を使用した例が多数報告されている(山本ほか,2017)•本調査でもSQM-LEを使用
SQM-LE•Unihedron 社が開発•夜空の表面輝度(以下 NSB)を計測する機器•天頂20度の単位立体角あたりの等級値 (mag/arcsec2) の計測可能•簡単に継続観測が可能、安価であるため国内外で広く使用されている(Sánchez,2017)•雲や霧の影響を受けていることを考慮する必要がある(山本ほか,2017)
Open Weather Map•世界中の任意の地点について、天気データを提供•世界中の気象機関の予測モデル、観測データを使用しAPIにて提供本調査では、下記理由により使用した•気象機関の観測地点がない•雲量を取得するため(気象庁は11地点のみ観測)
環境要因データ収集SQM-LE-NSBOpen Weather mapAPI-雲量-気温-天気Astrotourism.jp 分析
計測例:月齢7.3-9.30123456789101112131415161718192021222318:2018:3018:4018:5019:0019:1019:2019:3019:4019:5020:0020:1020:2020:3020:4020:5021:0021:1021:2021:3021:4021:5022:0022:1022:2022:3022:4022:5023:0023:1023:2023:3023:4023:500:000:100:200:300:400:501:001:101:201:301:401:502:002:102:202:302:402:503:003:103:203:303:403:504:004:104:204:304:404:505:005:105:205:30NSB(mag/arcsec2)時刻5月3日 5月4日 5月5日
ツアー参加者による星空評価の予備調査場所:和歌山県紀美野町 みさと天文台期間:5/1(月齢7.3) - 6/12(月齢12.6)休館日及び悪天候時は実施せず人数:250人現在の星空の美しさを5段階評価してもらう。-バイアスの掛からぬよう、ガイドは星空の状況に言及せず-暗順応してからの実施
18.8019.0019.2019.4019.6019.8020.0020.2020.4020.6020.800.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50 5.00NSB(mag/arcsec2)参加者評価相関係数:0.658(p<0.001)仮説1観光客の星空評価は、空の暗さと相関がある結果:参加者評価の平均とNSBは正の相関がある
NSB 気温 雲量 月の等級相関係数 .658*** .058 -0.486*** .383*※p 値 ***p<.001, **p<.01, *p<.05NSBだけでなく、月の等級と正の相関あり雲量と負の相関あり来館者評価とNSB、雲量、月の等級それぞれの相関係数の差を検定したところ、有意な結果とはならず→仮説2は棄却された仮説2:観光客の星空評価は、気温や雲量、月明かりなど個別事象よりも総合的な事象である空の暗さと相関がある※月の等級は『天文年鑑2022』を参照
予備的考察Min 19.06Max 20.70SQM計測の値星の数星の等級5等級から6等級の違いを認知⇒星の数の違いにより星空を評価していると示唆されるDark Skies AwarenessのHPより引用
まとめ・今後の展望1. 星空ツアー実施中に行なったため、属性を踏まえた分析ができなった。2. 評価の際に周りの意見に同調して答える例が見られた。3. ツアーガイドに配慮しているのか、極端に悪い評価をする例が少なかった。4. 調査時期に見られる春の星空は明るい星の少ない季節であり、評価に影響を 与えた可能性がある。みさと天文台以外の星空体験での調査や属性を含めて分析など、今後も継続して調査する必要がある結果:参加者評価の平均とNSBは正の相関がある→5等から6等の夜空の違いは認知
参考文献• 澤田幸輝・尾久土正己ほか(2021)「アストロツーリズムに対する日中間の認識ギャップに注目した意識調査」 『2021年日本天文教育普及研究会年会集録』• Sánchez de Miguel, A., et al. "Sky Quality Meter measurements in a colour-changing world." Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 467.3(2017): 2966-2979.• 山内千里(2022)「みさと天文台の”令和の大改修”に至るまで」『21世紀WAKAYAMA』100, 9-16.• 小野間(2017)「星空環境の評価指標の比較」• 澤田幸輝・米澤樹・尾久土正己(2022)「アストロツーリストの夜空評価をめぐる予備的考察― SkyQuality Meter」『観光学術学会第 11 回大会要旨集』pp. 31-32.• 山本・小林・藤井(2017)SQMで福井の夜空の明るさを測る : 測定方法とその 問題点『福井大学地域環境研究教育センター研究紀要 「日本海地域の自然と環境」』• 田村・安藤(2018)徳島の星空:定点観測による光害の時間的変化